Peccatum

小説をかきたい!

テーマ:「初恋の日」

この日チョコレートの菓子を貰った。
 人気女優がその持ち前の澄んだ声で、少女の恋心をテーマとしたオリジナル楽曲を歌い上げ、自身の魅力をこれでもかと大衆に見せ付ける演出のコマーシャルで話題だ。
よく見ると、微かにフタが開けられた形跡がある。
 どうやらパッケージを開ける音を楽しむことはできない。そんなことはどうでも良く、フタを開けている時点で、中にあるのは商品名や口づけという言葉やらとは無縁の固体であることに気が付いた。
 色褪せた不恰好な、山吹色。見るからに渋柿、あるいは間引かれ…良くてB級品だろう。

 駅からの帰路、家まで200m手前にある民生委員のお爺さんの家の石壁から飛び出し、その存在を主張する。
横着な主人が、熟れようがどうなろうが食べないから、ボトボトと落ち、潰れる実たち。
 子供たちからは羨望の眼差しが向けられていた。誘惑に負けて手を伸ばすことが正義だったのではないかと今では思う。

 時計は午後4時を回ろうとしている。半ば降ろされたシャッターが、今日という一日が終わりに近づいたことを知らせている。
 私の手にこの不恰好な果実を残した人物の、無造作に野菜を詰め込んだコンテナを搭載したトラックは既に走り去っていた。
 シャッターの間から吹き込んだ風はひんやりと冷たく、シャツを捲り上げて露出したわたしの前腕に氷の様な肌触りを残した。